〈郷土の音楽素材ライブラリ〉は、日本学術振興会の科学研究費補助事業として取り組まれた「郷土の音楽素材の教材開発と大学教員のアウトリーチによる実証的研究」(基盤研究(C)21530971)の研究の一環として2009年に設立されました。
〈郷土の音楽素材ライブラリ〉は、日本学術振興会の科学研究費補助事業として取り組まれた「郷土の音楽素材の教材開発と大学教員のアウトリーチによる実証的研究」(基盤研究(C)21530971)の研究の一環として2009年に設立されました。 主な取り組みは、秋田県や山形県にかかわる作曲家の作品や楽譜資料の収集と教材開発によるライブラリを設置し、それらを活用して大学教員と地域の音楽家が協働しながら学校や地域のために出前授業やレクチャー・コンサートを行ったり、研究成果を発表をしたりするというものです。
これまで、秋田県や山形県の「郷土の音楽素材」を、①伝統音楽的音楽素材、②西洋音楽的音楽素材、③生涯音楽的音楽素材の三つに分類し、資料収集や教材開発をするとともに、開発した教材を用いたレクチャー・コンサートや授業実践に取り組んできました。
①伝統音楽的音楽素材とは、地域に伝わる民謡やわらべうたなどの民俗芸能にかかわるものです。
②西洋音楽的音楽素材とは、明治の洋楽黎明期から今日に至るまでの郷土出身の作曲家による唱歌などの音楽作品です。たとえば秋田県関係では『浜辺の歌』の作曲者として有名な成田為三(1893-1945)や日本人初のオペラ『羽衣』を作曲した小松耕輔(1884-1966)、山形県関係では日本の女性作曲家第一号である松島彜(1890-1985)や陸軍軍楽隊長を務めオーケストラから吹奏楽までの器楽作品の発展に大きな足跡を残した大沼哲など、今日の日本の音楽文化発展に大きな貢献をしてきた音楽家の存在と彼らによって生み出された数々の作品があります。作品の一部は教科書教材として長く歌い継がれているものもありますが、多くは芸術的価値や音楽的価値も見極められないままに時代とともに忘れ去られているのが現状です。それらの中には音楽作品としてばかりでなく、既存の教科書教材等に勝るとも劣らない教育素材としての可能性を秘めているものがあります。
③生涯音楽的音楽素材では、地域の文化施設や音楽家などを教育資源の一つとして捉え、学校教育や社会教育を通して音楽による地域振興と発展を目指すものです。
「地産地消」は食育の取り組みの一環として提唱されている言葉であり、文字どおり地域で作られた農水産物を地域で消費すること及びその効用を意味しています。<郷土の音楽素材ライブラリ>は、音楽教育に地産地消の理念を援用し、「地域の音楽素材と地域のシェフ(音楽家)による『音育』の推進」について提唱していきます。
地域の音楽素材は、地域の生活に根差し、人々とかかわりながら発展してきたものです。過去と現在をつなげ、現在が未来につながり、人と人とを結びつけるものです。音楽を媒介として地域や郷土を学び理解することは、地域の音楽文化を理解する子どもの育成にとどまらず、地域の新たな音楽文化を創造し形づくっていこうとする人間の育成が期待できるでしょう。